Works 03 — 文化遺産の継承(その1) 文化財を、未来に
文化財を、未来に
引き継ぐために。
網走刑務所旧正門 耐震改修
文化財の修理は、過去を保存する仕事ではなく、次の時代に引き渡す仕事です。私たちが触れるのは、建物の長い時間のうちの数年にすぎません。何を残し、何を替え、その判断をどう記録して次に渡すか。設計より先に、現在を読むことからはじめます。

はじめに — 網走のシンボル
建築から百年以上を経た煉瓦造の旧正門は、いまも網走を象徴する建物のひとつです。市のマラソン大会のスタート地点になり、多くの人が訪れる観光資源でもあります。
求められたのは、耐震性能を確保しながら、意匠を最大限守ること。現状の保存を第一に、これから長く使い続けるための耐久性も高めること。つまり、この景観を保ったまま、門を次の長い時間へ引き渡すことでした。
読解 — 煉瓦をどう補強するか 
イギリス積の煉瓦壁とアーチ — この表情を消さないことが設計条件
壁は、イギリス積の煉瓦です。煉瓦造の耐震設計では、地震の力を受け止める面内方向に加えて、壁が外へ倒れようとする面外方向の検討が欠かせません。耐震診断で示された4つの補強案を比較したうえで、既存の煉瓦がそのまま残る鉄骨補強案を基本に、補強を最小限まで絞り込みました。

見えない補強 
石のアーチと木の大扉 — 補強は、この景色の裏側に隠れる
正面の入口側には、柱のような目に見える補強材を一切設けず、内側の展示室側で補強する構成としました。煉瓦壁は、目地にアラミドロッドを挿入する工法で面外方向を補強し、目地は全面を同じ仕様で補修して色を揃えます。屋根面には鉄骨梁と水平ブレースを回し、建物全体をひとつに固めます。
あわせて、旧看守室を展示物を間近に見られる壁面展示や、外気に触れさせないショーケース化を提案し、見やすさと風化防止の両立を図っています。
